Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしはのろのろと手を上げて、スピーカーになったままの心音の通話を切った。
「どうして……」
今度は啓が眉を寄せ、あたしを見上げてくる番だった。
「そこまでして、どうしても相手を引きずり落としたいのか……」
そこまでして?
―――あなたには一生分からないわよ。
初めて怒りが込み上げてきた。
巻き込みたくない、と思ったのは偽善だったのかもしれない。本心は邪魔されたくなかったから、なのか。
いいえ、違う。
「あなたが傍に居てくれないから!!!」
あたしは叫んでいた。
啓は目を開いてまばたく。
どうしてそんな目で見るの?どうしてそんな憐れんだような目をあたしに向けてくるの?
恋に破れ、過去の制裁をしようとして、それが失敗したあたしが憐れ―――?
あたしは静かにPCの電源を落とし、
TRRRR!
心音から再び掛けてきたのであろうスマホの電源も切った。
静かに席を立ち上がり、
「瑠……」
何かを言いかけようとした啓の横をすぅっと通り抜けた。
まるで幽霊が彼の横を通り抜けるように、静かに。
廊下に出て、あたしは履いていたジミーチュウのパンプスを脱ぎ、靴を持ったままのろのろとエレベーターホールに向かった。
「計画が失敗したのなら、靴を脱ぐのはあたしだけ。
心音に裸足で歩かさせない」