Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしは眠らない街、東京の歩道を素足(正確にはストッキングを履いていたけれど)で歩いた。
今度こそ、冷たいアスファルトの感触をしっかり感じた。
冷たい―――
当然だ。むき出しのアスファルトはあたしの足の裏を直に刺激する。
そのひんやりと冷たい感触はまるであたしの心の中を現しているようだ。
昼は太陽の熱を吸って暑いぐらいなのに、陽が暮れると急に冷たくなる。
熱くなったり、冷えたり。
どれぐらいそうやって歩いただろう。
すれ違う人が怪訝そうにあたしを見てきたけれど、その視線すら気にならないぐらい。
「瑠華ちゃん!!」
ふいに名前を呼ばれ、のろりと顔を上げると、
「葵さん―――」
葵さんは酷く心配そうに眉を寄せ、走り寄ってきた。
まだいたのか…
「どうしてここに?」と質問したけれど、すぐに納得がいった。
「ああ、二村さんの指示で?どうせ弱った女を慰めろ、とか?言われたのですか」
「………」
葵さんは俯いた。
無言は肯定の意味だろう。つまり二村さんはやはりあたしがオークションを決行することを見込んでいて、それが成功しても失敗してもあたしに近づくよう指示したようだ。
「瑠華ちゃん―――」
葵さんが近づいてきた。
「すみません、今、あなたの顔を見たくありません」
「でも!足!靴っ!」
尋常ではないあたしの様子を見て葵さんは走ってくる。
「気にしないでください、そして放っておいてください」そう言うのが今は精一杯。
「気に―――……するよ!」
葵さんの大きな声を聞いた直後、
ふわり
と何かがあたしを包みこんだ。
その”何か”は葵さん自身で。
幾度も葵さんに抱きしめられたけれど、いつもと違う。力が籠った―――
啓とは違う、優しい柔軟剤の香り。背は高くないけれど、骨ばっていて、しかし適度に筋肉がついていて、力強い―――
それは”オトコ”の腕だった。
「放って―――おけないよ」
葵さんの声は僅かに震えていた。