Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ゼロセンチの距離。
♠ K ♠
―――
―――――
遡ること20分程。
裕二からの電話で気付いた。
瑠華の偽のオークションの稟議書、決行が今日の日付だったって―――
くっそ!
何で俺は覚えてなかったんだよ!
瑞野さんと彼女のお母さんとの食事会を抜けてタクシーを拾い、俺は慌てて裕二にコールバック。
「悪い、今から社に戻る。どうなってる?」と口早に聞くと
『どーも、こーも。俺がお前に渡したUSB、柏木さんが何かやらかそうとしたらこっち(俺)から阻止できる筈だったのに!ファイルが塗り替えられてた!』
俺は携帯を耳に当てたまま、目を開いた。
あのUSBはその意味があったのか。
だから裕二は瑠華の動向を気にしていたのだ。
でも
「塗り替えって?」
『さぁ、知んねぇよ。だけど俺が作ったシステムを誰かがすり替えたのは確かだ』
「誰か―――?その誰かは特定できないんか?」
いくらやり手だからと言って、裕二の上手を行く程、瑠華にその力があるとは思えない。
そしてふと思い立った。
「心音ちゃん―――……」
『あ?』裕二の不機嫌そうな声が聞こえてきた。背後でひたすらキーボードを叩く音が聞こえている。
「だから、そのファイルを塗りかえたのは心音ちゃんじゃないかって」
『その可能性は大いにあるな。くっそ!早過ぎる!』
裕二の舌打ちがキーボードを叩く音と混じって微かに聞こえてきた。
そして、ふとまた別の疑問が浮かんできた。
「USBを―――外部から塗り替えることは可能なのか」
『外部から?つまり少しも触れないでってことか?いや、それは無理だな。接続してからは可能だと思うが』
接続してから―――……
つまり俺があのUSBを差し込んだときから、ってことか?
『まぁ?それよりも古典的な方法はあるがな』
「古典的な方法?」
『USB自体をすり替える。或いは予め中身を塗り替える』
すり替え―――中身を塗り替え―――
俺は再び目を開いた。