Fahrenheit -華氏- Ⅲ
瑠華の肩からふっと力が抜けたのが分かった。腕がだらりと両脇に落ちる。
そしてのろのろと手を上げて、スピーカーになったままの心音ちゃんの通話を切ったようだ。
「どうして……」
今度は俺が眉を寄せ、瑠華を見上げた。
さっきの激しい波のような、激高はすっかり凪いでいた。
「そこまでして、どうしてもヴァレンタインを引きずり落としたいのか……」
瑠華はまっすぐに俺を見て、しかしその瞳の中から怒りと悲しみが複雑に渦巻いているようだった。
「あなたが傍に居てくれないから!!!」
瑠華が叫んだ。
俺は思わずは目を開いた。
俺が―――瑠華の傍にいたのなら、君はこんな無茶なことしなかったのか。
俺が―――……俺だけが、君のブレーキになれたのか。
俺は――――マックスに勝てたのだろうか。
そんな想いで瑠華を見上げていると、彼女は静かにPCの電源を落とし、
TRRRR!
突如鳴った瑠華のスマホからの着信にも反応することなく電源も切ったようだ。
そして静かに席を立ち上がり、
「瑠……」
俺は何かを言いかけようとしたが瑠華は俺の横をすぅっと通り抜けた。
まるで幽霊が俺の横を通り抜けるように、静かに。
力が抜けた俺は、何とか立ち上がるのが精一杯だった。
肘と膝に力を入れ、ぐっと立ち上がる。
「くっそ…」
思わず悪態をつく。
瑠華の計画に気付かなかった俺。この日が決行の日だったことをすっかり忘れていた俺。
俺は―――、一体何をやってるんだ。