Fahrenheit -華氏- Ⅲ


日本に来てファーストフード店に来たのは初めてだ。


葵さんが注文をしてくれてる間、あたしは葵さんが買ってきてくれた消毒液と絆創膏を持ってお手洗いに入った。


ストッキングは擦り切れて伝線がいってるものの、足の裏はほとんどが細かい擦り傷で出血もない。


それでも一応葵さんの買ってくれた消毒液で消毒して絆創膏を貼り、ストッキングを履き替える。


サイズはピッタリでも―――色が合わない…


なんて文句を言ってる場合じゃない。葵さんの善意に感謝しなければ。


これ買う時どんな気持ちだったのかな…


やっぱり恥ずかしいのかしら。いいえ、葵さんのことだからいかにも慣れてる、と言うか気にし無さそう。


お手洗いから出ると、すでにオーダーを済ませた葵さんが奥まった席で手をぶんぶん振っている。


誰かさんに似ている。








そっか





啓だ―――




誰でも良かったんじゃない。


あたしはきっと、ほんの少しだけ啓の雰囲気を滲ませた葵さんと一緒に居たかったのだ。


でも葵さんは



啓じゃない。



啓――――


今、どんな気持ちでいるのだろう。


あたしに裏切られたって思ってるに違いない。


さっきは抱きしめてくれた。けれどわざと突き放すことをした。


会社の駐車場だ。


二村さんがどこで目を光らせているのか分からない。


本当は抱きしめ直したくて、あの厚い胸に顔を埋めたかった。


啓の香りをいっぱいに感じて―――


さらっていってほしかった。


けれど、そんなことして何の意味になる?


今のあたしが出来ること。




計画を進めることしかできない。


< 488 / 608 >

この作品をシェア

pagetop