Fahrenheit -華氏- Ⅲ
何だか疲れてきた。
一人にはなりたくない、と一瞬願ったけれど相手を選ぶべきだった。
けれど、あたしの為にわざわざドラッグストアまで走ってくれた葵さんに、いつも通り冷たくできず…(←いや、今でも充分冷たいデスよ)
「葵さんは行ってみたい国とかないのですか」
一方的に聞かれてばかりじゃ、こっちが墓穴を掘りそうだったから敢えてあたしから質問した。
「俺?」
葵さんは自分の方を指さし、あたしが頷くと、葵さんの表情はぱっと華やいだ。
何?
考えが顔に出ていたのだろうか
「いや、瑠華ちゃんから質問されるってこと珍しいな~って思って。それって結構嬉しい」
何が嬉しいのだ。
「行ってみたい国はいっぱいあるな~、アメリカは勿論だけどタイにベトナム、英国圏にも行ってみてーな~
その時は瑠華ちゃん案内してよ。
俺バカだからさ、英語は勿論他の国の言葉なんて分かんないし、海外の事情も知らないし、こんないかにも騙しやすい日本人は犯罪に合うかも、だろ~」
いひひ、と葵さんは白い歯を見せて笑う。
「一緒には行きません。それにあなた程図太ければ犯罪に巻き込まれることもないかと」
あっさりばっさり言うと
「あ………瞬殺」
葵さんは傷ついたような目で訴えかけ、心臓の辺りを押さえテーブルに突っ伏す。
何なの……
「ふっ」
思わず口から笑みが漏れた。
「あ、笑った!」
葵さんはあたしの方を指さし。
「笑ってはいませんし、指を差すのは礼儀がなっていません」葵さんの手を軽く払っても葵さんはへらへらと笑っていて全然堪えていない。
「笑ったよー、嘘ばっかり」
頬杖をついてふわふわと笑う葵さん。
何だか小型犬といるようで、憎めない。