Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「俺、瑠華ちゃんのそう言うとこ、
嫌いだ」
今度は葵さんがハッキリと嫌悪の色を浮かべた表情であたしを見据えてきた。
ふと、泥が着いた脚が止まった気がする。
ただ彼は後ろを振り返り、その脚痕を酷く汚い何かを見る目つきで観ているような気がした。
「何でもお金で解決しようとするところですか?
前の前のオトコから教わったことです。
何でもお金で解決してきた最低な男でしたが、教訓にもなりました。まぁ、私がそこまで成り下がったと言う意味でもありますが」
余分な感情を持ちこみたくない。あたしは極力機械的に言った。
彼の前で自分を取り繕う必要などない。
「俺に金つかませとけば何でも言うこと聞くと?」
「違うのですか」
「生憎だが俺は瑠華ちゃんの人形じゃない。機械でもない」
そんなこと分かっている。彼はいつだって自分の意思で動いて、そこには体温があって。
けれどあたしは彼の人間的部分を求めているわけじゃない。お金で動く可愛い人形でいてほしいのだ。
「だから言うけど」
葵さんは切り出した。
「瑠華ちゃんは―――
空汰に復讐することで、そのオトコから逃げてるんじゃないの?」
逃げてる―――?
あたしが目を開くと
「さっきのオトコと瑠華ちゃん……二人の間に何があったのか分かんないし、空汰が何しでかしたのかも知らされてないけど
俺に金払ってがむしゃらに突き進んで、別に…最初は別に突っ込むつもりはなかったけど、金貰って動いてるだけだし、でも最近思うんだ…
瑠華ちゃんと過ごした日々を考えると。
瑠華ちゃんの人形じゃなく、瑠華ちゃんと過ごして人としての体温を感じ始めたから、かな。
だから尚更
瑠華ちゃんは根本的な何かから目を逸らしてるだけなんじゃないかって」
根本的な何か―――
「……それは何ですか」
あたしの声が震えた。怒りに戦慄いたのだ。
あなたが―――あたしの何を知っていると言うのだ。
それにあたしにとって彼と過ごした日々は、やはり業務内であり私用は一切挟んだつもりはない。
「それだけの行動力もあって頭がいいのに、頭が良すぎると自分の感情に素直に向き合えないんだね。
”あのオトコ”のことが好きなら、何もかも放り投げて縋りつけばいいじゃん。かっこ悪くても、惨めでも。
それが出来ない瑠華ちゃんはかっこ悪いし
正直、幻滅するよ」