Fahrenheit -華氏- Ⅲ
何となく……すぐ帰る気になれなかった。
かと言って行く当てがあるわけでもない。
でも帰らなきゃ……
この時間、終電には間に合うけれど電車に乗る気分にもなれなくて、視線をぐるりと回すと色鮮やかなネオンを光らせた大きな映画館が視界に飛び込んできた。
何となく…腕時計に目を落とすと、深夜0時少し前だった。
この時間ならギリギリレイトショーに間に合う?
殆ど何も考えずあたしはふらりと、映画館に吸い込まれるように足を運んだ。
広いロビーは人がまばらだった。たくさんの受付カウンターがあったが、半分以上『close』のパネルが立っている。その隣からキャラメルポップコーンの甘い香りが漂ってきていて充満している。
何を観るのか決めていなかった。
入口付近の上映映画一覧の案内パネルを見て、さっきの女子大生っぽい女の子たちが持っていたパンフレットと同じ広告を見つけた。
『先生、好き。
だけど、さよなら』
と言う台詞が書いてあった。
よくみると主演女優の女の人……と言うか見るからに高校生ぐらいの若い子は濃紺のブレザーと言う制服姿で、向かい合っている男性はあたしと同じぐらいの年齢のスーツ姿の男性だった。
教師と生徒…?
サブタイトルなのだろうか『許されない恋にさようなら』と書かれていた。
”禁断の恋”と言う括りならありがちっちゃありがちだけど。
許されない恋に――――さよなら……かぁ
あたしは殆ど迷うことなく開いているカウンターに向かうと、その映画のタイトルを述べ運良く最後の上映だと言うことを知らされ、すぐに席を取った。