Fahrenheit -華氏- Ⅲ
混乱と葛藤。
―――けれど好きな気持ちは止められない。
―――そう、誰にも止められないのだ。
同じくあの手この手で近づいてくる主人公の女子高生に徐々に惹かれていく教師。
教師と生徒と言う立場上、その一線は決して超えてはいけない、そう考えつつも惹かれる気持ちに歯止めが利かなくなる。
互いの本心を知らないまま好き合う二人。
これを――――
すれ違い、と言うのだろうか。
今のあたしと啓の―――ように?
いいえ、あたしと啓はすれ違ったとは言い切れない。彼がまだあたしを好きでいてくれてるのか、なんてもう今のあたしには分からない。
終盤、女子高生は教師を好きになったことが罪だと感じて、そして同時に親友の仇討ちのような格好で教師の前で自殺を図ろうとする。
『あんたが傷つくのは、あんたのせいで大切に思ってる人間が傷つくこと。あんたはあたしを愛してるって言った。
どう?愛した女が目の前で死ぬ様は。
最高の復讐じゃない?』
狂気と悲しみが混ざった笑い声で包丁を自身の首に突きたてる、若手女優の迫真の演技には息を呑んだ。
そして微笑みながら涙する主人公。
『あたしが……先生を好きになっちゃった。本気で好きになった。
……あたしは乃亜を裏切った。あんなに大好きだったお姉ちゃんを一番最低な方法で裏切った。
だからこんなあたし生きてたらダメなの』
―――ダメ、なんかじゃないよ。
あたしはいつしか彼女と一緒に泣いていた。
人を好きになって死ぬ程ダメなことなんてあるものか。
そりゃ妻帯者を好きになったりとか道徳的にダメな場合もあるけれど、それでも死んではいけない。
結局、教師は彼女の包丁を強引に奪い、命を粗末にするなと怒る。
啓にも―――言われた。
『もっと自分を大事にしろよ!』
『……か……逝かないでくれ。僕を……置いて逝かないでくれ』
彼の必死の訴えに、あたしは鼻を啜った。
彼もまた泣いていた。
啓も―――同じ気持ちでいてくれたのだろうか。
俺を置いて逝かないで、と。
―――――
――
上映が終わり、最後のエンドロールが流れても誰も帰る気配がなかった。
方々で、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえてくる。
あたしも目尻に溜まった涙を人差し指の腹で拭っていた。
久しぶりだった。
こんな風に強く心を揺さぶられる作品は。