Fahrenheit -華氏- Ⅲ
色々と―――自分に重ねてた部分もあるかと思う。
エンドロールが終わり、場内が徐々に明るみを増してきたとき、数少ない客たちがぞろぞろと帰っていった。
あたしも、そろそろ帰らなきゃ。
啓とは二人で色んな映画を観た。二人で観る映画はどんな駄作であろうが笑い合っていた。独りで観る映画は別れて初めて。
何も感じない、と思っていたのに心は妙に満たされていた。
そしてふと現実にかえる。
終電は?まだあるかしら。
たとえあったとしてもこの泣きはらした顔で帰るのは何だか恥ずかしい。
タクシー拾おうかな。
そんな思いで映画館の表通りに出ると、ふと背後で人の気配を感じた。
直接声を掛けられたわけじゃない。
ただ、静かに―――あたしの背後を歩いてくる。
不審者とかの類ではないことは分かった。眠らない街東京の雑多な喧騒の中、その足音はどこまでも優し気な気がした。
「いつまで尾いてくるのですか。
葵さん」
後ろを振り返らず言うと、足音はぴたりと止まった。
ゆっくりと振り向くと、両手をパーカーのポケットに突っ込んだままの葵さんは俯いたまま視線を地面に彷徨わせている。
さっき、レイトショーのギリギリに滑り込みしてきたのも葵さんに違いない。
「尾行とは悪趣味ですね」
ついさっき変な別れ方をした。けれど声が尖ったのはその別れのせいだけではない。
彼にはいつもこんな風だから。
あたしも怒って言っているわけではない。
「……ごめん、後を尾けてくようなことして…
さっき……俺、瑠華ちゃんに言い過ぎた。だからちょっと心配で…」
「私は―――あなたに強く言われたからと言って自棄を起こすような女じゃありません」
キッパリと言い切ったけれど、すぐに思い直す。
喧嘩―――をしたわけではない。少なくともあたしはしたつもりはない。そもそも喧嘩をする仲ではないのだ。けれど彼の中で『喧嘩』と取ったのかもしれない。
だからこれを、仲直りだと言うのだろうか。
ぶっきらぼうな視線を地面に彷徨わせ、ぎこちない仕草で頭の後ろを掻いている。
葵さんはあたしを、心配してくれた。
「ありがとうございます。私もさっきは言い過ぎました。
ごめんなさい」