Fahrenheit -華氏- Ⅲ
真咲が入院しているのは会社と割と近い場所だった。会社近くの花屋で俺は花束を作ってもらった。
いつか真咲が欲しがっていた赤い薔薇の花束―――
しかし俺は赤い薔薇ではなく黄色い薔薇の花束を用意してもらった。
赤い薔薇の花ことばは「情熱、あなたを愛しています」
黄色い薔薇は「笑って別れましょう」
以前、瑠華から聞いた花言葉。
俺は―――真咲にきちんと別れを告げられたつもりでいた。
けれど真咲の中では終わってなくて、ちゃんと「お別れ」を言ったつもりでもアイツの中に消化不良な“恋”がまだくすぶっているのなら
今、終わらせるのが一番だ。
花屋でそこそこの大きさの花束を受け取り、タクシーを拾い真咲の入院している病院のその場所を告げると、10分もしない内に到着した。
割と大きな総合病院の手前で降ろしてもらうと、俺は菅井さんから以前聞いていた病棟を訪れることにした。
『産婦人科』のプレートが下がった病棟を訪ね、ナースステーションで「真咲 満羽の見舞いに来た」と申し入れると、すぐに看護師が案内してくれた。
若い看護師は真咲の病室の扉の前「真咲さん、お客様ですよ~」と言葉も少な目に扉をノックする。
「はい」
中から声がして
「真咲?――――俺」
と、問いかけると中から扉が開き、化粧を施していない素の顔の、まだ若干顔色が悪いものの、パジャマにニットガウンを羽織っただけの真咲がおずおずと顔を覗かせた。
「啓人―――」
真咲は思いも寄らぬ訪問者に驚いたに違いないが、看護師は俺たちが顔見知りだと理解したのか
「それでは」と言って立ち去って行った。
「入っても?」俺が聞くと、真咲はぎこちなく頷いた。