Fahrenheit -華氏- Ⅲ

病室はそれ程広くはないが個室で、こざっぱりとしていた。


「菅井から聞いたの?もう少しで退院できるわ」


「うん、菅井さんから聞いた。聞かされたときはびっくりしたけど。


見舞いに行っていいか菅井さんの了承も得ている」


「そ。菅井も人がいいんだか、お人よしなんだか」


真咲は自嘲じみてふっと笑う。


「迷惑だった?」


俺が聞くと、真咲は首を横に振った。


「せっかく来てくれたしお茶でも飲んでく?」と真咲はいつになく素直に言い、小さなキッチンのような場所からポットを手に取る。


「いや、いい。すぐに帰るし」と言うと、真咲はゆっくり振り返った。


その振り返り様に俺はずいと真咲に薔薇の花束を差し出した。





「――――ごめんな」




別れる前、俺は何度も謝った。何度謝っても足りないと思っていた。


でもそれはあくまで義務的、かつ責任感からで、心から―――謝ったことは、なかった。


差し出された薔薇の花束を受け取り、真咲はちょっと困惑したように眉を寄せた。


「今更、何……」


かろうじて聞いた言葉に、


俺は眉を寄せた。




「不甲斐ない俺で、ごめん」



「何言って―――……」真咲は戸惑ったようにさらに眉を寄せた。





「お前が望んでいた通り、俺……


瑠華と別れた」




俺の言葉に


バサリっ


真咲の手から薔薇の花束が床に落ちた。


「何で――――……」真咲は眉を寄せたまま俺に問いかけてくる。


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