Fahrenheit -華氏- Ⅲ
瑠華―――
髪にキスをしてくれた。
嬉しかった。
泣きそうになるぐらいに。
「今日は髪洗いたくないな……」
なんて…大好きな芸能人と握手をしたときの一般人みたいな意見を浮かべてる俺、どうよ。
てか昨日ハプニングとは言え会社に泊まったからシャワーしてねぇし。
流石に今日は浴びたい。
重い腰を上げのろのろとバスルームに向かった。
―――
――
シャワーを浴びさっぱりとした俺は、シャワーの湯で心のもやもやも幾分か流していってくれたようで心の方も妙にさっぱりとしていた。
まだ濡れたままの髪をがしがしとバスタオルで拭いながらキンキンに冷えたビールを冷蔵庫から取り出す。
缶のまま口にしたビールはやけにうまかった。
あっという間に一本を空にし、二本目を取り出す。
二本目はゆっくりと味わった。
テーブルに置かれた稟議書をまじまじと見る余裕すら出てきた。
俺は稟議書をじっと見つめて
「間違いないな、これは親父の―――…」
言いかけた所でビールと共に言葉を飲み込んだ。
瑠華は一体どうやってこの”マジック”を使ったのだろうか。
流石に瑠華でも違法なことはしていない筈。
二本目を空にしたところで、答えなんて見つからず
「しゃーない、明日”あいつ”に電話でもすっか」
気が進まないけどな…
日曜日に電話をしたらしたで『休日を一緒に過ごす女も居らんのか』とかぼやかれそうだが、そりゃあんたも同じだろ?
と、返答を用意して。
俺はその日そのままソファの上で泥のように眠った。