Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「どーした親父!あんたが休日の朝に”女”と一緒!?」
稟議書の件はもはや頭から吹き飛ぶ程衝撃的な出来事だ。
『え…?ああ…』
と、親父は惚けているのかスルーするつもりなのか、曖昧な返事だ。
「ようやくおふくろのこと吹っ切れたみてぇだな」
この歳になって嫉妬なんてしない。むしろ感動の涙さえ浮かんでくる。
あの女っけゼロの親父に新しい女。
赤飯ものだ。
『いや、それは―――…』
親父は尚も言い訳がましいことを口にした。
「どうした?あんたらしくないぜ?俺は応援してるから、今度は愛想つかされないよう頑張れよ」
『親切なご忠告どーも、で?何だったんだ?こんな時間に』
「いや、いーわ。平和な時間を潰してまで喋る内容じゃないし。また連絡する」
『?』
親父が電話の向こうで首を捻る動作が想像できたが、俺はヤツが何か言う前に勝手に通話を切った。
親父に女……
「親父に女」
ガバッ!
俺はソファから勢いよく立ち上がり
「今日は赤飯だっ!!!」
一人叫んでいた。
―――――
――
午後になって裕二がうちを訪ねてきた。
「何、この御馳走。今日誰かの誕生日か?因みに俺の誕生日は8月だぜ」
と裕二がテーブルに並べられた赤飯、ポテトサラダ、マカロニグラタン、鶏のから揚げ、タコのマリネをしげしげと眺め訝しそうに眉を寄せている。勿論、料理は全部俺の手作りだ。
「これは親父に新しいオンナが出来た祝いだ」
満足げに腕を組んでると
「はぁ?」と裕二は頓狂な声をあげた。
「いや、ワケわかんね」
「いいんだ、裕二。お前に理解してもらおうとは思わない、俺の完全なる自己満足だ」
軽く手をあげ、一人うんうん頷いていると裕二は奇異なものを見るような目つきで俺を見てきて
「お前、昨日の出来事で頭のネジ二本ぐらいぶっ飛んだ?」と同情するような目つき。
何とでも言ってくれ。
今、俺は(何だか)幸せだからな。