Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「んで?”問題の”SDカードがこれ?」
ダイニングテーブルの向かいの席で裕二が俺が手渡したSDカードを掲げている。
「おうよ、うまく編集してくれないか?」
俺は缶ビールを片手にから揚げの山に箸を伸ばしていた。
「俺はそっち方面あんま得意分野じゃないからこれは”外注”に出すワ」と言って裕二はSDカードを手のひらに包んだ。
外注…?
が、何なのか分かんなかったがこいつ色々ネットワーク持ってそうだからな。ま、こいつに任せておけば大丈夫だろ、と言うことで俺はから揚げを頬張った。
「でもさー、これ”細工”した後どーすんの?二村に気付かれずこっそり返すことなんて出来んの?」
裕二はマカロニグラタンをがっつり取り分けながら目を上げる。
「気付かれず、なんて今更無理だ?今頃SDカードが無くなって慌ててる筈だからな」
「じゃー、どーすんの」
俺はから揚げを呑みこむとニヤリと笑ってやった。
「直接返す」
「は?んなことしたら細工したことバレるじゃん」
「んなこと、無くなったときに消去されてるか細工されてるかヤツだって想像してンだろ」
「ま、まぁそうだろうけど……でもアイツの事だから何か因縁つけてきたら」
「因縁?こっちだってつけたいね。ヤツのやったことは”盗撮、盗聴”だ。犯罪もんだろ。どっちもどっちだ?」
それに直接返す理由は他にある。
俺からの宣戦布告だ。
お前には
負けない。
裕二は呆れたように目を細めた。「でも細工された動画を見てヤツは信じるかな」
「信じるも何も、俺が細工するのはほんの一部分だ。それはヤツにとって都合の悪いことじゃない」
「なるほどね~」
「瑠華が”偽の”オークションを実行した場面、バッチリ残してやろう。それでヤツも安心する筈だ。運が良ければ細工されたことすら気付かないかもしれないな。
ま、お前の言う”外注”の腕次第だが」
「その辺は任せとけ。”向こう”はプロだ。某大手テレビ局のディレクター」裕二は二の腕をポンポンと軽く叩く。
「おお!それは頼りになるな!……でも、どこで知り会ったの?まさか前のオンナ…」
「んなわけあるかぁ。女ってとこは間違ってないけどな。てかお前のセンサーすっげぇな。そいつは専門学校時代の同期。ぜんっぜんタイプじゃないから男友達感覚だ」
「ほーなるほどぉ」
俺から見た綾子みたいな関係ね。