Fahrenheit -華氏- Ⅲ
マンションに帰ろうとしたときだった。
TRRRR…
電話が鳴ったのを聞いたがジーンズの尻ポケットにねじこんだ携帯になかなか手が届かなかった。と言うのも結構買い物しちまったしな。
俺、主婦かよ。
なんて思いながら何とか携帯を手にして目を開いた。
着信:瑞野さん―――
そう言えば、俺ちゃんと昨日の詫び入れてなかった。
瑞野さんに限って怒ってるとかはなさそうだけど、俺は慌てて携帯の通話ボタンを押した。
「あー……瑞野さん昨日は…」
言いかけた言葉を
『あの…部長、今おうちですか?』と間をおかずせっかちに聞かれた。
瑞野さんには珍しい物言いだ。
瑞野さんの質問の意図が読めず
「いや?ちょっと買い物に、まぁ自宅の近くだけど」
『じゃぁちょっと今から窺って宜しいですか?』との発言に
「は!?」と思わず素で答えてしまった。
窺って、って俺ん家?
何故に!?
『あの……実は会社の携帯を無くしてしまいまして……昨日レストランでは見たのが最後で、お店に連絡したらないって…
それで、もしかして部長の鞄の中に紛れ込んじゃったのかも、って…』
あー、そう言えば昨日鞄を引っかけたっけね。それで瑠華の稟議を発見できたんだけど。