Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「コーヒーでも飲む?」
瑞野さんをリビングのソファに促し座らせるとさりげなく俺は問いかけた。
瑞野さんは最初物珍しそうにキョロキョロと辺りに視線を配っていたが俺の言葉に大きくこくこくと頷いた。
「きれいにされてるんですね」
本心なのかそうじゃないのか。
「そう?さっきまで裕二が居たからこっちは散らかってるけどね」
俺は苦笑い。
ダイニングテーブルはかろうじて片付いているが、シンクの中には食べ終えた皿やビールの空き缶が無造作に突っ込まれてる。
こんなことなら裕二を送ってくって言い出さなければ良かった。
「すみません、お忙しいときに」
瑞野さんは再び恐縮して肩を縮こませる。
「や、いいよ。そんな気にしないで」
コーヒーメーカーでコーヒーを淹れている最中
「あ、そうだった。携帯だったね。鞄書斎にあるからちょっと見てくる」
俺がわざとらしく大きな声で言うと、瑞野さんはまたも「すみません」と肩を縮ませる。
書斎に使っている部屋に行くと、俺は乱暴にクローゼットを開けた。
確か…あった筈。
今は不要になったものが無造作に放り込まれている段ボール。俺はその段ボールを急いで取り出すと、これまた乱暴な手つきで中をまさぐった。
中にはまだフロッピー時代のPCのディスクやら普段使わない文具の類がごちゃごちゃに混ぜ入っている。
どこだ…
どこだ!
確かあった筈!
やみくもに目的の物を探していると、それは五分で見つかった。
あった!
俺は昔使っていた
古い携帯
を手に取り、そこから慌ててSDカードを取り出した。