Fahrenheit -華氏- Ⅲ





俺はスマホの通話を切った。


項垂れたままの瑞野さんにスマホを渡し


「ごめん、ちょっと……てかかなり?怖い思いさせたみたいだね」


自分のしたことなのに、何んともバツが悪くて俺は頭の後ろを掻きながら瑞野さんに謝った。


瑞野さんは、ゆっくりとふるふる頭を横に振り


「ごめん……泣かないで…泣き止んで…」と今度が俺が俯いて、コーヒーが零れたラグを眺めていると


瑞野さんはまたもふるふると頭を横に振った。


「……すみません……怖かったんじゃないんです……


何か色々ごちゃごちゃになっちゃって…


今、プライベートでちょっとドタバタが…」


プライベート?ゴタゴタ?


「二村と喧嘩でもした?」と俺が聞くと、瑞野さんは目尻に浮かんだ涙を指の腹で拭いながら


「……違います。お母さ……母とちょっと…喧嘩しちゃって…」


「あー…、それって俺のせい?昨日途中でブッチしたから」


「いえっ!それは違います」


瑞野さんは慌ててかぶりを振った。この様子からすると本当のようだ。


「じゃぁどうしたの?」と聞くと、瑞野さんは舌唇を噛んでまたも俯いた。


俺は瑞野さんの横に腰を下ろし天井を仰ぎながら


「まー、言いたくないことってあるよね」


瑞野さんはこくんと小さく頷いた。


「コーヒーダメにしちまった」ははっと俺は空笑いをして「淹れなおしてくる」と言いソファを立ち上がったが、


「あ、あの!」と瑞野さんも立ち上がった。


今度は何?


と一瞬構えたが


「…実は、あたしコーヒー苦手で……そのお茶とか…」


「え?そーなの?」初めて知った。


今まで普通に俺の前でコーヒー飲んでたからてっきり好きなものだと思ってたが。


< 519 / 673 >

この作品をシェア

pagetop