Fahrenheit -華氏- Ⅲ
その時だった。
ピンポーン!
エントランスホール入口のインターホンが鳴って、顔を合わせていた俺たちは揃ってビクリとなった。
「あ!客だっ!」
俺はわざとらしく言ってソファを勢いよく立ち上がった。
ふー……危ねぇ、危ねー
俺こそ瑞野さんに流されて、思わず頭ぽんぽんするところだったー!
てかこの時間に誰だ?
インターネットで買い物もしてないから届け物があるとは思わなかったし、滅多に来客もないからな。
インターホンのモニターを覗き込むと、目を怒らせた
二村
が写っていて、俺は眉間に皺を寄せた。
なるほど、さっきのテレビ電話でどっかでみた光景だと思ってたら俺の家の近くだったわけか。普段当たり前のように目にしてるから、あまり意識してなかったけど。近くで見張ってたわけだな。
「はい」
低く答えると、相手は挨拶なしに間髪入れず
『部長っ!みゆきは!』と勢い込んできた。
その様子を見ていたのだろう、瑞野さんが慌てて俺の背後から
「空っ……二村くん!あたしは大丈夫だよ!お茶飲んでただけだからっ」
と二村と同じ勢いで勢い込んだ。
それでもまだ信じられなかったのか
『開けてください!』と二村は眉を吊り上げている。よっぽど余裕がないと見えた。
「は?何で、お前を入れなきゃならない」俺は、ふんと鼻を鳴らし横柄に腕を組んだ。
『いいんですか?”これ”を会社にバラまいても』と二村はニヤリと笑い、俺のマンションに俺と瑞野さんが揃って入って行く様子の画像を映したスマホを掲げた。
ちっ
一々用意がいいヤツだな。
会社にバラまくと言ったら本当にそうするだろう。別に他の女社員に見られても構わないが、また瑠華の目に入っちまったら。
仕方なく俺は”開錠”パネルを押した。