Fahrenheit -華氏- Ⅲ
がばっ!
あたしは慌てて起きあがった。
起き上がって改めて気付いた。
服……昨日のままだ。
化粧も落としていないし、シャワーも……
だけどここで断るのは綾子さんに悪い気がするし。
「えっと……すみません」
『そうよね…急に言い出して私こそごめんなさい。日を改めるわ』とちょっと残念そうな声が聞こえて
「いえっ…!そう言うことじゃなく、少しお時間いただいても?恥ずかしながら私…昨日シャワーも浴びず寝てしまって…」
『え?いいの?』
「ええ、うちは全然構いません。一時間程お時間頂いても?」
『全然構わないわ。私、柏木さん家知ってるからインターホン鳴らすわね』
「お願いします。では一時間後」
通話を切った後、あたしは慌ててソファから立ち上がりバスルームに直行。
…しようと思って、思いとどまった。携帯の着歴を見て”あれから”心音から電話が無いことに気付いた。
心音―――昨日一方的に電話を切って怒ってるのかしら。
思わず目を伏せ、慌てて頭を振る。今は落ち込んでる暇もない。
とにかくシャワーを浴びなきゃ。
きっと―――
綾子さんの来訪が無ければめまぐるしく過ぎた昨日一日のことあれこれ考えていそうだった。
嫌なこと。怒ったこと。
温かった―――こと。
『瑠華ちゃん』
胸を押さえた瞬間、何故だか葵さんの顔がふいに浮かんだ。
何で……
何であたしは葵さんの顔を思い浮かべたのだろうか…
ちらり、とキッチン脇に置いてあるチェストに目を向けた。その上には葵さんがくれたイルカのスノードームが飾られてる。
スノードームの中、今は雪は降っていない。
きっとそのスノードームが視界に入ったからに違いない。だからあたしは葵さんの顔を思い浮かべてしまったのだ。
何てことない、記憶の記録が引き起こした感情だ。
だからこそ綾子さんの来訪はありがたかった。色々な感情に振り回されて一日を憂鬱に過ごすなんてごめんだ。
いつもより時間を短縮して30分程で慌ててシャワーを浴び、髪を乾かし、化粧を―――…ダメだ…化粧をする時間はない。
化粧は諦めて、着替えを……じっくり服を選ぶ時間すらない。慌ててジーンズと白いワイシャツに腕を通し、簡単に部屋のチェックをしていると
ピンポーン
エントランスホールのインターホンが鳴った。
「わ…」
思った以上に早かった。