Fahrenheit -華氏- Ⅲ

『Hey.』心音の声音も普段通りに聞こえた。


「昨日は―――ごめ……」と言いかけたとほぼ同時


『昨日はごめん!』と心音の大きな声が重なった。


思わず口元を引き締め目を開く。


『一晩考えてって……言うか頭を冷やしたからこんな時間になっちゃって…ホントはすぐにでもあんたに電話するべきだったけど、あの時のあたし感情的になってたから言っちゃいけないことも言っちゃいそうだったし』


一晩―――頭を冷やして…?


あたしは壁掛け時計をちらりと見た。


今は10時15分をちょっと過ぎたところ。ニューヨークでは朝の7時15分頃だ。


くすっ


あたしは喉の奥でちょっと笑った。


『何よ、怒ってるの?』と心音のふくれた声が聞こえてきて


「いいえ、心音にしちゃ朝早いなーって思って。それとも仕事が立て込んでた?」


『You know what?(あのねー)、考えることって苦手なの。仕事は無かったけど考えすぎて疲れちゃったわ、今から寝る。あんたが怒ってないってことも分かったし、これでぐっすりだわ』


バカね、心音。


あたしが怒られるのは覚悟してたのに、何であたしが心音に怒るのよ。


そう言えば、いつぐらいだろう。こうやって喧嘩(?)したのは。すれ違ってしまったのは。若い時はお互い言い過ぎて二三日口を利かなかったこともある。


あの時は謝るキッカケを考えて考えて、でも何だかこちらから謝るのも癪で、きっとお互い同じ気持ちだったに違いない、たくさん悩んでたくさん考えた。


今回は120%あたしが悪い気がしたけれど、心音はあたしの気持ちもきっと考えてくれたに違いない。





「あたしたち、親友よ?それぐらいでダメになったりしないわ」

< 529 / 680 >

この作品をシェア

pagetop