Fahrenheit -華氏- Ⅲ
啓の話によると麻野さんにSDカードの中身を細工してもらう、と言う話だった。
「でも、その必要もあんまなさそうだったしな……そのまま二村に突っ返してやろうかっと思って」
二村さんに―――?
今度はあたしが目をまばたき
「それ―――」
あたしは一瞬、距離感がつかめなくて二人の仲が完全に壊れてしまう前のように啓ににじりよった。
啓が目を開いて後ずさるように腰を引いた。
何を―――、やっているんだか。
ようやく我に返り、今度ははっきりとわかる動作であたしが元いた場所に戻る。
「それはいいアイデアですね」
と何とか言うと、啓がぱっと顔を上げた。
「ホントに?」
また、今度はまるで子供が母親に褒めてもらったような顔を作って啓の顔が一瞬だけ華やぐ。
「ええ、宣戦布告。
そして、あの男の元に自分が有利な証拠が手元に残った、と言うことは隙をつく意味もありますし。
ただ―――」
あたしの言葉に黙って頷いていた啓が「ただ」の先が気になるのだろう、身を乗り出した。
「あなたがSDカードに細工していないのを不審がられるのはあると思います。
何故、一回壊したフリをしてオリジナルをわざわざ返してきたのか」
「それは俺がバカなフリしておくよ。何も問題がなかった、って。そんで、今度こそ本当に壊したり細工したりしたら器物破損とかで訴えられるかもしれねぇから、とでも付け加えとくか。
もっともらしくない?」
「ええ、二村さんの性格ならやりかねないと思いますので、その言い訳はいいかもしれませんね」
「あいつのずる賢い性格を利用するときが来るとはなー」
啓は長い脚を投げ出し宙を仰いだ。
あたしは膝の上できゅっと手を握った。
これで―――完全に一歩リードだ。
そう確信した。