Fahrenheit -華氏- Ⅲ


20XX年11月21日


AM07:45


日曜日の昨日は久しぶりにゆっくり眠った。


誰か訪ねてくるわけでもなく、一人でどこかへ行くこともなく。


佐々木さんに借りたアニメのDVDを見ながらただ、だらだらと一日を過ごした。何日間の疲れが溜まっていたのだろう、テレビを見てはうとうとし、の繰り返しだったが夜は思いのほか熟睡できた。


すっきりした頭と体で月曜日出社できるのは何週間ぶりか。


エントランスホールのエレベーターに乗り込み”閉”パネルを押そうとしていると


「あー!待って!待ってください!」


と男の人の声が聞こえて反射的に”開”パネルを押したものの、今日のスッキリ感が一気に崩れ去ったような。


慌ててエレベーターに滑り込んできたのは




二村さん




偶然―――?


即座に”閉”パネルを押したかったけれど、普段の癖なのかそれもできず。そもそもそんな子供っぽい嫌がらせをする自分が許せない。


あたしは仕方なく二村さんを招き入れることになった。


エレベーターは二村さんとあたしの二人っきりだ。


「ふー、間に合った~、ありがとうございます。あ!柏木さん?」


と二村さんは額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら相も変わらず人懐っこい笑顔でにこにこ。


この様子からするとただの偶然だろう。


あたしの勘繰り過ぎだった。


「おはようございます」


社会人的最低限のマナーで小さく頭を下げると


「おはよ~」と二村さんはへらへら笑った。


啓は二村さんがあたしに何か仕掛けてくることを懸念していたが、今の様子では何もしかけてこなさそうだ。


まぁ警戒はしているけれど、恐るるに足らず、だ。


「何階ですか?8階で宜しいですか?」そっけなく問うと


「うん、ありがと~、柏木さん朝早いね~」と二村さんは一昨日啓の部屋まで怒鳴り込んできたなりをすっかりひそめて相変わらず子犬のように人懐っこい。


まぁ、あたしも直接啓の部屋に乱入してきた様子を目撃したわけじゃないけれど、啓から聞いた話によるとかなり余裕を無くしていたらしい。


「私は普段はもっと早いですが今日はちょっと寝坊をしてしまいまして」と何でもない、一昨日啓の部屋に二村さんが強襲してきたことは何も知らないと言う様子で持っていた英字新聞を開く。


「へー、いっつももっと早いんだぁ。柏木さんて謎だよね~、そうだ!先週金曜日何してた?」二村さんの質問がきて


パタン


あたしは英字新聞をたたんだ。


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