Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「―――と言ったところでどうするつもりなのですか。あなたは女性のお相手で大変そうですから。


私の入る余地などないはずですが?」





淡々と言うと二村さんは大きな目をまばたき、しかしすぐに体制を立て直したのか


「あはは~、相変わらず柏木さんてキッツイなぁ。せっかく可愛い顔してるんだからさ、もっと笑った方がいいよ。それに柏木さんは俺を女ったらしみたいな言い方するけどそうでもないんだよ~」といつもと変わらずへらへらと愛想笑いを浮かべる。


「不愛想でごめんなさい」そっけなく言うと


「うん、不愛想はよくないな~。でも


俺、柏木さんが怒ったところは見たことないけど、泣いたとこ見たことないんだよね~




強そうな女が俺の前で泣いたら、どんな感じなのかなーって、ちょっと気になる」



ここにきて二村さんの唇が意地悪そうに曲がった。


「泣いている女の涙を拭えば、慰められれば堕ちる、と、でも?


甘いですね。


私の涙は高いですよ?



ちょうど今円安が続いています。(※2022年9月2日現在、1$¥140.38)200万US$が今現在どれぐらい高騰しているのか、頭の良いあなたなら簡単に計算できるはず。


その価値が分かりますか?」



淡々と言うと二村さんは目をぱちぱち。


200万US$はマックスからの慰謝料だ。つまり二村さんのやってることはそれぐらいに匹敵する。


チーン…!


ちょうどエレベーターが目的の階に到着した。


ほんの少しの安堵感にあたしの足取りは軽くなった。


「お話は以上で?着きましたよ」


今度こそ二村さんの腕を払いのけ、エレベーターから降りると、


「待ってよ!」と二村さんが追いかけてきた。


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