Fahrenheit -華氏- Ⅲ
何で、この俺様がかつての宿敵と一緒に飯を食わなきゃならない。
心の中でブツブツ文句を言いつつも、結局ついてきちゃった。
何とか断ろうかと思ってたが、村木ってなんか逆らえない雰囲気あるんだよね…
村木が言った通り、その定食屋は男の俺らが速足で歩いても10分と言う、会社からちょっと離れた場所にあった。
こっちの方は来たことがないし、裏通りで、おまけに店の看板が何の店か分かりづらいのもある、一見して定食屋には見えなかったが、古い古民家風の引き戸を開けると思いのほか客が入っていた。
客層の半分がいかにもママ友の集まりだという主婦、そしてもう半分が営業回りのサラリーマン風だった。
「ここなら会社から離れてるし、社内の人間に会うこともないでしょう」
まぁ…?村木の気遣いはありがたいが…
秘密の男女の関係みたいな設定な言い方やめてくれ!!
「いらっしゃいませ~、お好きな席へどうぞ~!」と威勢のいい店員のおばちゃんに言われ、村木は慣れた動作で座敷の四人掛けの席へ腰を下ろした。俺もそれに倣う。
「メニューです。ここは何を食べてもうまい。どうぞ、今日は私の驕りですのでお好きなものを選んでください」
と言われ
ゾゾっ!
俺の背中に悪寒が走った。
「奢られる覚えはありませんが」と引きつる顔で何とか答える。
何を企んでやがる、と言う考えを押し隠して。
「私の記憶違いでなければ、あなたは明日お誕生日だと思ったのですが」
村木が顎に手をやり「間違えたか?」と一人ブツブツ。
誕生日―――……
そっか、もうそんな時期か…
俺は村木に言われるまで自分の誕生日をすっかり忘れていた。