Fahrenheit -華氏- Ⅲ


―――

―――――



「はぁ!!!!!?


妊娠した、って嘘をついただぁ!!!?」





俺の声に周りに居た数人の社員たちが振り返った。


「しっ!声が大きいです!」と緑川が慌てて唇に指をあてる。


「あ、ああ…ごめん。でも何で…」


緑川は俺が奢ってやった紙カップのコーヒーを掌の中で包みながら


「あたし……本当に一瞬、そうかもって疑ったことがあったんです……


それで柏木補佐に相談したら…」


瑠華に――――……?


「もちろんすぐに検査を勧められました。検査結果、妊娠してないことが分かったんですけど…


柏木補佐がこれはチャンスだって…」


「チャンス?」


緑川が二村の子供を妊娠したら瑠華にとっても分が悪い筈―――


「二村くんの気持ちを推し量るチャンスだって。


それで、あたし柏木補佐のアドバイス通り、嘘をついて二村くんの気持ちを量ってるところなんです……」


はぁ…


俺の取り越し苦労ってことか…


てか瑠華は何でそんなことを?


そんな考えを読んだのか緑川がぽつりと話し出した。


「こないだも言ったと思うんですけど、二村くんはあたしじゃなくて、あたしのパパが好きなだけで、


子供ができたらあたしのパパだって許さないワケないって…


一人娘の婿になるから、当然良いポストが用意されることは想像できますよね?」


そう問うてきた緑川の目は若干潤んでいた。


そうであって欲しくない、権力が欲しいわけじゃない、緑川自身を愛してる、そう思い込みたいのだ。


「だけどやっぱり不安で……妊娠を知った二村くん、最近過剰過ぎるぐらい葉月のことを心配してくるし……やっぱりパパの後釜を狙ってるんだ、ってもうそれ以外考えられなくて……」


瑠華は――――言い方が悪いかもしれないが緑川をうまくコントロールしたようだ。


瑠華が何を緑川に吹き込んだのか分からないが、緑川は今疑心暗鬼になっている。




だからか。



だから二村は瑠華を緑川に近づけたくなかったのだ。




ようやく納得がいった。


ニヤリ…


俺の口元に笑みが浮かんだ。


瑠華は俺の約束を破って、緑川に接触し続けた。いや、接触したのは緑川の方だ。瑠華は心配する意味もあって緑川に応えた。結果、緑川は二村を疑っている。


内部分裂とは願ったりだ。

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