Fahrenheit -華氏- Ⅲ

しかし謎は残る。


そんだけ自分の立場が固いと自負している二村なら、何故瑞野さんを使ってまで俺の家に強襲してきたのか。


緑川の子供の父親になるって言うんなら将来安泰だが、やはりそれ以上の”何か”を求めているに違いない。


そして”それ以上の何か”にあのオークションの録音の証拠は絶対不可欠なのだ。そしてそれを緑川には知られたくない、と踏んだ。


あのタヌキ(緑川副社長)もあんな腹黒い婿を取ったら大変だよな~、


くくく、いい気味だぜ♪


「なぁに笑ってるんですかぁ?」と緑川が不審そうに聞いてきて


「いや?ちょっと思い出し笑い」と俺はてきとーに誤魔化した。


「とりあえず、葉月が妊娠してるって噂が出回ってもそれを信じてくださいね」と緑川は念押し。


「おうよ」


まぁ、それこそ二村の狙いだろうな。緑川が自分との子供を妊娠していると噂が広まれば、報告しないまでも副社長の耳に入るだろう。外聞を気にするタヌキのことだから反対はできないだろうし、


うまくやったな、二村。


短い会話を終えコーヒー一杯を空にすると俺たちはそれぞれのブースに戻った。


「お帰りなさい」とデスクの群れには瑠華だけが一人、もくもくとPCに向かっている。


「あれ、佐々木は?」


「経理部に行ってます。書類のミスを指摘され」


「そっかー……」


………


ダメだ…!会話が続かん!

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