Fahrenheit -華氏- Ⅲ

そう言えば、瑠華って俺の誕生日が明日だってこと覚えてるのかな…


その日は特にそれらしいことを匂わせることなく、淡々と業務をこなした。


夜も21時を過ぎ、相変わらず残業をしているのは俺と瑠華だけになった。


「よっし!今日の業務しゅーりょー」と心の中で呟き、最後の数字を打ち込みながらちらりと瑠華の横顔を盗み見た。


瑠華は、相変わらずきれいな顔で淡々とPCに向かっている。


覚えてるかな、俺の誕生日…


別に何か欲しいってわけじゃないが、このまま残業を続けて一緒にゼロ時を迎えられたら、それだけで十分だ。


俺は明日の打ち合わせの用意や、次の案件の資料揃え等、適当に仕事を見繕ってわざとのろのろとこなした。途中、タバコを吸いに行ったりで、時間を潰したが……


22時半になって、パタン…


何かの資料が閉じられる小さな音を聞き、何となく瑠華の方を見やると瑠華はPCの電源を落としていた。


「お疲れ様です、私はお先に失礼させていただきます」と無表情に言って席を立ち上がる。瑠華の最近のお気に入りなのか良く見るルイ・ヴィトンのカプシーヌの黒いバッグを手に取り、同じくルイ・ヴィトンのベージュ色をしたショールを首に巻き付けていた。


「え?帰っちゃうの……」


思わず聞いてしまってから慌てて口を覆ったが


「ええ、帰りますが」と瑠華は特に俺の発言に不審がったりはしなかった。ていうか興味がなさそうだ。


「失礼します」白いコートをふわりと羽織り、瑠華はさっさと帰っていってしまった。


やっぱり覚えてなかったか。


覚えていたとしても別れたオトコの誕生日を祝うことなんてしたくないよな。


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