Fahrenheit -華氏- Ⅲ

連れてこられたのはホテル内のちょっとお洒落な和食レストランで、看板には”うつたひめ”と書かれていた。


入ってすぐ、右側の窓際のテーブル席からは上層階から見下ろすきれいな夜景が広がっていて、右手には太めの木の格子で遮られているが、ゆったりとしたカウンター席が並んでいる。


藍色を基調としたテーブルなどのしつらえの中、種類は違うが白色の花々が美しく飾られていた。その壁の一面に大きな絵画、アルフォンス・ミュシャの『四季』に出てくる女神の一枚があった。


あれは―――季節的に……何となくだが、全体的に”冬”をイメージさせられるような。


そう言えば…


このホテルって何気に結構利用してたのに、バーと客室以外利用したの初めてだな。


ちらりと紫利さんを見ると、紫利さんは慣れた様子で


「二人、予約はないです」と二本指を立てていた。


「こちらにどうぞ、メニューはこちらになります」とテンポよく和服の店員に促され着席をして、すぐにメニュー表を手渡される。


こんな仰々しいい場所で話すような内容でもないが、断るのも紫利さんに悪い気がした。


「俺はとりあえずウーロン茶」


車で来たしな。飲んじまうと何かと面倒だ。


「あら、体調でも悪いの?」と紫利さんに聞かれ


「いや?車だから、単なるそれだけの理由。紫利さん帰り送ってくよ、近くまで」


「それは結構よ、タクシーで帰るから。それより飲めるってことよね、代行でも呼びなさいな」


といつになく強引(?)だな。


何だろ、旦那と喧嘩でもしたのかな?飲みたい気分的な?


俺は紫利さんを巻き込んじまって迷惑をかけていると言う負い目がある、頑なに断るのも失礼だよな…


「じゃぁ生……」と言いかけたとき


「ここで一番高いシャンパンを。グラスは二つ」と紫利さんはメニューを突き返していた。


へ??


「紫利さん?」まだメニューを開いていた俺は目を上げると




「だって、明日お誕生日でしょう?一日早いけど、お祝い」



紫利さん―――


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