Fahrenheit -華氏- Ⅲ
シャンパンはすぐに運ばれてきた。
料理は紫利さんが適当に頼んでいた。ここに来たことがあるらしく慣れたものだ。
店員にシャンパンを注がれ、俺は再び目を上げた。
「覚えててくれたの…?」
「当たり前でしょう」紫利さんはほんのちょっと苦笑。
「だって去年、神奈川の藤沢でパーティーしたじゃない、あなたの会社の、
あなたあのとき初めて私に正体を明かしたわよね」
(※「Addict -中毒-」参照)
「ああ……!そうだった」
「びっくりしたわ、あなた神流会長の御曹司だったなんて」
ふふっ
紫利さんは小さく笑い、グラスを傾けた。
「紫利さんは違うと思ったケド、色眼鏡で見られたくなかったって言うかねー…」
考えたらアホくさいプライドだな。
「見ないわよ、色眼鏡で、なんて。そもそも結婚してたのよ?私。
そしてあのとき、あなたは部屋を取っていて、私を連れ去るように部屋に呼んだわね。
花火があがって、最高のシチュエーションだった。
誕生日だって知らされてなくて、何も用意してなかったこと焦ったわ」
懐かしいな……たった一年前のことなのに、”もう”一年、だ。
確かに、あの夜は紫利さんを部屋に呼んだ。一人で居たいのに、紫利さんを見ると独りが妙に寂しくなって……
でも誰でも良かったわけじゃない。紫利さんだったから―――
「お誕生日おめでとう」
カチン…
グラスを重ねて紫利さんがにっこり微笑みを向けてきて、俺は照れ隠しに唇を噛んだ。
「………ありがと…」
村木に祝われるより、やっぱ女に祝われた方がいいな。
いや
紫利さんだから
良かったんだ。