Fahrenheit -華氏- Ⅲ
いや待て啓人、早まるな。
瑠華じゃないかもしれないじゃないか。
他の(女子)社員が俺の引き出しの中に入れていったかもしれない。
けれど淡い期待は箱を持った瞬間、どんどん色濃く俺の中をティファニーブルーに染めていった。
その箱には小さなカードが添えてあって
”HappyBirthday”とだけ、直筆と思われる筆記体の英字が綴ってあった。
差出人の名前は―――
ない。
瑠華の筆跡かどうか正直自信がない。筆記体でだいぶ崩してあるし。
俺はまるで爆弾を開けるかのように慎重な手つきで赤のリボン(ティファニーは通常白リボンですが、クリスマスシーズンは赤いリボンです)を解き、恐る恐る中を開けると
ティファニー 1837™ メイカーズ ブラック カーフスキン レザー コードブレスレット シルバー ゴールド……
俺は目をまばたいた。
以前、瑠華とティファニーの銀座本店にウィンドウショッピングに行った際に、買おうかどうか迷ったものだ。
確かに目が惹かれるデザインだったが、
『買わないんですか?』と瑠華に聞かれ
『うーん、かっこいいけどこの歳でなんかチャラくない?』と聞き返すと
『いいえ、素敵だと思いますが。啓に良く似合うと思いますよ?』と言われ一瞬その気になったが、結局のところ辞めた。
悩んでいるより瑠華とゆっくりとお茶をしたかったから。
あの時じっくり見たから覚えている。確か値段は
¥88,000(税抜き)
こんなピンポイントなプレゼントを贈ってくれるのは、俺に熱狂的なストーカー(いないと思うけどネ)以外、瑠華しかいない。