Fahrenheit -華氏- Ⅲ

悪魔は優しく微笑む。


♥Ruka♥

私がこの世でいちばん怖いもの、それは愛を無条件に要求する人の眼である。


愛さない人を断罪する人の眼である。愛されたいという人が愛されていないことを自覚したとき、人間は最も残酷になりうる。
ありとあらゆる復讐に執念を燃やす。


今朝から啓はそわそわとしていて、ちらちらと時折あたしを盗み見てきた。


その視線が分かっていて敢えて気づかないフリをしているあたし。


啓は―――


あたしが彼の引き出しに忍ばせたプレゼントの贈り主があたしじゃないか、と気になっているみたいだ。



勿論、そのプレゼントはあたしだ。



以前、啓とウィンドウショッピングした際に啓が買おうかどうか悩んでいたもの。


覚えていて良かった。


そんなそわそわした啓の視線をやり過ごし、昼休憩になった。


例のごとくあたしと佐々木さんが一緒に食堂に向かう。


今日の日替わり定食、鶏の竜田揚げを頬張りながら


「う゛~ん……意外とどこも予約いっぱいですね」


佐々木さんがスマホをのぞき込みながらしかめっ面。


その向かい側で、ワカメうどんを食べていたあたしも同じく自身のスマホを覗いていた。


急遽、決まった啓のお誕生日会の会場選びの為。


「もう、部長の言う通りほしの屋でいいんじゃないですか?」と佐々木さんは早くも諦めた模様。


「いいえ、あそこはなしです」


スマホをのぞき込みながら顔も上げずあっさりと言うと


「そ、そうですよねー……せっかくの部長の誕生日なのに職場の人間と会いたくないかぁ…」と慌てる。


あたし……どんな顔してたんだろ……


別に怖がらせるつもりはなかったのに。


佐々木さんは恐縮したように肩を縮こませて慌ててスマホを操作している。


あたしが”ほしの屋”を選びたくなかった理由―――


それは啓が瑞野さんと二人っきりで(正確には桐島さんもいたかもしれないけど)食事をしたところだから、だ。


見たくもなかった光景を目の当たりにして、あの時は激しく動揺した。


いえ、今でもその場を想像すると何としてでも”ほしの屋”を避けたい。


ふぅ…


思わずため息が漏れた。




何という醜い嫉妬心―――


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