Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしのため息を何と勘違いしたのか
「た、大変ですねお店探しも!でも、こうやって二人で探すのも楽しいかな~」
と佐々木さんがあせあせと気遣ってくれる。
自分の嫉妬心で佐々木さんにまで気を使わせて、あたしは最低だ。
「あ、ここなんていいかも」佐々木さんがスマホを向けてきて「どっちかと言うと麻布に近いかな…」とお店のHPを見せてくれた。
佐々木さんの言葉通り、そのお店は結構『良さそう』
「ネットで空き情報確認したら空席もあるみたいですし」
「ここに決めましょうか…」と話し合っていると
「あっれ~!柏木さぁん」
と、妙に間延びした声をすぐ近くで聞き、あたしは条件反射で体を強張らせた。
――――二村さん――
思えば、二村さんとこうして話すのもどれぐらいぶりだろう。
二週間は向かい合ってなかった気がするけど。
「お疲れ様です」軽く頭を下げると、佐々木さんも慌てて頭を下げた。
「お疲れ~♪」と二村さんはひらひらと、まるで長年の友達に挨拶するかのように気軽に言ってきて、その後ろでまるで影のように身を縮こませている
緑川さん―――を見てあたしは目を細めた。
『別に怒っていませんよ』と目だけで訴えると、それをどう捉えられたのか、緑川さんが一層身を縮こませた。
「そのお店に行くの?飲み会?」と二村さんは素早くあたしの方へ回り込み、あたしの手の中にある佐々木さんのスマホを覗いてくる。
あなたには関係のないことです、とすぐそこまで出かかった言葉は
「あ、そうなんですー、今日部長のお誕生日会でして」
と、佐々木さんがあっけなく暴露。
ちょっと!
と言う意味で向かい側の佐々木さんのくるぶしを軽くパンプスのつま先でつつく。