Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「葉月にもっと優しくしてあげてよ。
仮にも三か月ぐらい前までは一緒に働いてた仲間だろ?」
あなたが―――緑川さんに近づかないよう啓に言ったんでしょうが、とすぐそばまで出てきた言葉を呑みこみ
あたしは思わず佐々木さんと顔を見合わせた。
佐々木さんが慌てて場をとりなすように
「べ、別に柏木さんは意地悪で言ってるわけじゃ…」と慌てて弁明しようと手を振る。
「先ほどの言葉、緑川さんに向けたものじゃありません。あなたは頭が良いのに時々鈍感ですね」小さくため息をつくと
「え?じゃぁ俺に言ったってこと?
俺、柏木さんに嫌われることしたかな~」と、白々しい。
嫌われる―――ことしかしてないじゃない。
不穏な空気を悟ったのか
「二村くん、あっちの席空いたよ!ほら、席取らないと」と緑川さんが二村さんを少し離れた席へ促し
「そうだね。でも急がなくていいよ、ゆっくり、ね」と二村さんはまるでお姫様を扱うかのように緑川さんをエスコート。
二人が立ち去っていったあと
「あの二人付き合ってるんですかね…」
と佐々木さんがボソッ
あたしが目を上げると
「あ!すみません、邪推でしたね!」と佐々木さんは慌てる。
佐々木さんにハッキリと知られる程、二人を取り巻く空気が変わった。
それは緑川さんが二村さんの子供を妊娠している、という状況から変わったものだと推測される。
ピコン
すぐにショートメール通知が来て開くと
”さっきは感じ悪くてすみませんでした。でもあの『作戦』うまくいってます”
と、緑川さんから送信されてきた。あたしは緑川さんたちが今どのような会話をしているのか、どのような状況なのか分からなかったけれどそちらを見ることなく
”良かった。でもまだ安心はできません。このメールはすぐに削除を”と短く打ちスマホをテーブルに伏せた。