Fahrenheit -華氏- Ⅲ

ワカメうどんはおつゆがぬるくなって麺はすっかり伸びていた。


その美味しくないうどんを啜っていると、向かい側の席から佐々木さんがちょっと身を乗り出して


「あのぉ……前々から思ってたんですけど……柏木さんて二村くんのこと


嫌いなんですか」


と、これまた周りの喧騒でかき消されない程度の小声で問いてきた。


あたしはお箸をおくと





「ええ



大っ嫌いです」




と佐々木さんをまっすぐに見据えて言い放った。


「へ―――……?」


佐々木さんの手から箸がぽろりと落ちる。


「嫌いなのか聞いてきたのは佐々木さんじゃないですか、どうしてそんなに驚かれるんですか」


「え…いやー…柏木さんて普段クールだけど人の好き嫌いってなさそうなのになー…って思ってたからちょっと意外で…」


「ハッキリおっしゃってください、無関心そう、だ、と。


ええ、無関心でしたが、二村さんのことは



嫌いです」



「あ、あはは~」と佐々木さんはぎこちなく笑う。


「いやー…前々から思ってたんですけど、部長も二村くんのことうざがってますよね…それこそ部長って好き嫌いないのに


あ、村木次長は別ですけど」


最後の方佐々木さんは唇を尖らせた。


くすっ


あたしは小さく笑った。


「な、何ですか?」と佐々木さんが益々唇を尖らせて目だけを上げる。


「佐々木さんこそ好き嫌いないようにお見受けしますが?」


「ま、まぁ僕は敵を作りたくないタイプなんで事なかれ主義って言うか……面倒ごとに関わらなければそれでいいかなー…と」


正直なひと。


くすっ


あたしは喉の奥でまた笑った。


「な、何なんですか~、さっきから」と佐々木さんはふてくされたように顔を赤くしてそっぽを向く。


「That part of you is quite charming.(あなたのそういうとこ、なかなかチャーミングですよ)」


早口で言うと


「え?え?」と佐々木さんが目をまばたく。


「何でもありません」うどんの丼を手にしておつゆを飲むと、底の方にとごった醤油が流れ込んできてむせそうになった。


柄にもないことを言ったから、かしら。

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