Fahrenheit -華氏- Ⅲ


そんなやり取りをしているときだった。


TRRRR~


あたしのスマホに今度は電話の着信音が鳴った。


スマホを手に取ると


着信:心音


とあって今度はあたしの方が目をまばたいた。


「ごめんなさい、ちょっと電話が掛かってきてしまって」


「あ、はい。じゃぁ僕柏木さんの分も片付けておきますよ、ごゆっくりどうぞ」と佐々木さんは何とか空にしたワカメうどんのトレーを引き寄せる。


「お願いします」と小さく謝りあたしはその場から立ち去った。


食堂を出る際、ちらりと緑川さんと二村さんが座った方を見ると二人の姿はなかった。


あたしは食堂から出ると、啓と一度だけ来た喫茶店の手前、自販機が備え付けてある場所まで移動して電話に出た。


「Hey.」


『Hi honey.(ハニー)守備はどう?』


「Darling.(ダーリン)上々よ」


またも短く答えると、電話の向こうで心音がくすくす笑う声が聞こえてきた。


『てことはプレゼント作戦うまく行ったってこと?ケイトはあんたからのプレゼントだって気づいたの?』


「それは分からない。ただ、何か聞きたそうにはしてた」


『何で面と向かって渡さないのよ』


「あたしたちは今別れてる状況なのよ?面と向かって渡せる?」


『それはそうだけどー、プレゼントぐらいいいんじゃない?アメリカじゃ親愛なる上司にプレゼントをするのなんて当たり前だわ』


「親愛?」


『あら、違うの?』


「違わなくはないけど……」


『何よ、含みのある言い方ね~、ま、渡せたんなら良かったわ。あんたのことだからまたうだうだ考えてそうだったから』


「あのね、あたしがいつあんたの前でうだうだしてたのよ」


『英文科のOliver(オリバー)先生の時とか?マックスと付き合う前も悩んでたじゃない』


「もうやめて、捨て去りたい過去よ」





『どっちが?』





心音に聞かれてあたしはきゅっと唇を結んだ。




「Of course, it's Max.(もちろんマックスに決まってるでしょ)」



ふふっ


心音が電話の向こうでまたも小さく笑った。


『オリバーの時はあんたの熱烈片思いだったもんね~』


「だからオリバー先生の話はヤメテ。しつこいわよ」ちょっと目を怒らせると


『ごめん、ごめん』と心音はちっとも悪びれた様子もない。


けど




「もしかして、プレゼント渡せたかどうか心配してくれてたわけ?」


問いかけると


『Beats me.(さぁ?)』と心音はとぼける。


ふふっ


今度はあたしが笑った。




素直じゃないなー、心音は。


でも


応援してくれて




嬉しい。


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