Fahrenheit -華氏- Ⅲ
あたしと麻野さんは、以前啓と二人で行ったことのある社内の喫茶店に落ち着くことになった。
ホットコーヒーを飲みながら、麻野さんが唐突に
「で?心音ちゃんは最近どお?」と予告もなく聞いてきた。
突如として心音の名前を彼から聞いて目をまばたいた。
「心音ですか?元気にしていますが」
「そ?なら良かった」
そして会話は途切れた。
……なるほど。
あたしは飲んでいたカップをソーサーに戻し
「はっきりと仰ってください。前回のオークションの件、心音が関わっていたことあなたは疑っているんでしょう?」
とはっきり聞くと、今度は麻野さんが虚を突かれたように目をまばたいた。
麻野さんは変な言い訳をすることなく
「ま~ね~、疑ってるっていうか確信してる。だって電話で聞こえてきちゃったんだもん、心音ちゃんの声」
電話……そっか…”あの時”確かあたしも心音と電話をしていて、啓も麻野さんと電話をしていた。心音の声が聞こえてきて当然か。
「でもさー、不思議なのは俺のプログラムしたファイルは啓人にUSBで渡したもんなんだよねー。USBを柏木さんのPCに繋げたら後は自動で阻止してくれるようプログラミングしたんだけど、内容が全く変わってて
差し込んでからプログラムの書き換えをするのは相当難儀なことなんだよ。よっぽど腕の立つ人間の手がないとね」
「何を仰りたいのですか」
あたしが目だけを上げて言うと、麻野さんは目を細めた。
「だ・か・ら、あのUSBの内容は”元々”書き換えられてたんじゃないか、って。これは俺の想像だけどね」
あたしは再びカップを手に取り口元まで運ぼうとした。
その手を麻野さんが阻んだ。
あたしの手を掴み、カップがその反動で揺れ、中に入ったコーヒーが大きくゆらりと揺らめいたが幸いにもこぼれることはなかった。
「すり替えたの、柏木さんだろ?」