Fahrenheit -華氏- Ⅲ

俺より一足早く喫煙ルームに入っていった瑠華は今まさにタバコの先に火を点けるところだった。


相変わらず自販機の陰になってしゃがみ込む形で。


一歩間違えればヤンキー座りに見えちまうが、瑠華の座り方は小動物がちょこんと腰かけているようにしか見えない。


可愛い……


まるで子猫ちゃんじゃないか。


「あ、お疲れ様です」人懐こいのかどうかよくわからないが大人しい猫のような瑠華が目だけを上げて小さく頭を下げる。


「お疲れ~、今日はありがとね、俺の為に誕生日会」


「いえ」


瑠華は返事は短く、それだけで会話は終わってしまった。


「あ、あのさー、さっき時間があったから調べてみたらあの店杏仁豆腐がうまいらしいね~」


今ばかりはめげてられない。俺は本来のぐいぐい攻撃で瑠華に携帯で開いた店のHPを見せた。


こんな所二村に見られでもしたら勘違いされそうだが、俺たちは今別れてる最中だしー


これぐらいいいだろ。


「さっき?時間があったから?余裕があるのなら佐々木さんを手伝ってあげてください、上司として失格です」


「………」


瑠華……別れる前から思ってたけど、何故、俺にだけ冷たいの??


けれど


「杏仁……私、大好きです」と瑠華の淡いピンク色の唇にこれまた淡い笑みが浮かんだのを見て、俺は心の中でガッツポーズ。


くぅ!やっぱ可愛いぜ!


嗚呼、この笑顔を独り占めできたら……瑠華が俺の隣でずっと微笑んでくれていたら……


と妄想…想像…してると


「やー、あの噂ってガチなんかな~」と男二人の社員が入ってきて、俺の甘い(?)時間は終わった。


「噂?二村と緑川さんが付き合ってるってアレ?」


「二村もうまくやったよなー、逆玉ってヤツ?緑川さん可愛いし」ともう一人の男が聞きながら入ってきて、俺たちを見つけると慌てて頭を下げる。


緑川が可愛く見えるのはどうなの??お前ら目ん玉腐ってんじゃないのか?


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