Fahrenheit -華氏- Ⅲ
黒い画面のスマホを睨み、苛々した気持ちを隠せないで二本目に火を灯していると
喫煙ルームの扉が開いた。
入ってきたのは
啓
で―――
啓は、あたしの姿に最初気付かなったみたいで……まぁ無理もないか、あたしは自販機の影でしゃがみ込んで吸っていたわけだから。て言うか敢えて隠れてるわけじゃなく、これがあたしの通常だし。
でも―――……
あからさまに目が合った。
「あっ……ごめっ!柏木さん…トイレかと…!」
啓は慌てる。極力こちらを見ないように……あからさまに顏を逸らして。
「いいえ、お気になさらず」
そうは言ったものの、あたしは火を点けたばかりだし―――、ここでほとんど残っているタバコの火を消すのは不自然だ。
「あ、俺……先にトイレ行ってくるワ」
啓の方が不自然を隠しきれず、まるで逃げるように出て行ってしまった。
はぁ
あたしは煙と共にため息を吐いた。
うまくいかないものだ。
大嫌いな男から連絡がきて、大好きなひとはあたしの手をすり抜けていってしまう。
うまく―――いかない。
何度目かのため息をついていると、またも扉が開き
けれど、今度は啓じゃなく
村木さん―――……
が現れた。