Fahrenheit -華氏- Ⅲ
村木さんもあたしの存在に気付かず、「ちょっと一服」と言う具合に入ってきたけれど、自販機の隅のあたしを発見すると
「ぅわ」と彼らしからぬ驚きの声をあげた。そして「びっくりした…」と聞こえるか聞こえないかの小さな声でボソッ。
まぁ聞こえたけど。
「柏木補佐……何故そんな所に…?」と彼はドキドキしてるのだろうか心臓辺りを押さえながら、必死に平静を保つよう装っている。
「すみません、これが私の通常ですので、お気になさらず」
小さく謝ると
「いえ…」と村木さんも小さく謝る。
驚く村木さん、初めて……いいえ、二度目ね。一回目はお嬢様と大喧嘩していらした。
物珍しいものを見る目つきで村木さんを見上げると、よっぽど驚いたのが恥ずかしかったのか村木さんは口元に手を当て、ふいと顏を逸らす。
「そう言えば、神流部長がこちらから出てくるのが見えましたが」
「……ああ、お手洗いに行かれましたよ」
「そう…ですか」
村木さんはそれ以上のことは突っ込んではこず、大人しくタバコを胸ポケットから取り出す。
それから少しだけ無言のときを共にしたが
「それより柏木補佐、神流部長と別れたのですか」
突如としての村木さんのストレートな物言いに
げほっごほっ
あたしは煙にむせた。
ストレート……過ぎる。