Fahrenheit -華氏- Ⅲ
最悪な偶然。
♥Ruka♥
偶然は重なるもの?そもそもその”偶然”ってどこからきているのかしら。あなたが思っているのは単なる”偶然”じゃなく”必然”かもしれないわよ?
「だから、さっきから何度も言ったろ!何であんな危険なオークションなんてしたんだよ!」
啓が目を怒らせ、アルコールも入っているのであろう熱い息で一気にまくしたてる。
どうしてこう言う流れになったのだろう…と考える余裕はもうなかった。
一本だけで終わるつもりが、あたしはもう三本目に火を点している。
「あなたには迷惑をかけてないでしょう、終わったことを今更何を」と反論すると、啓はさらに目を吊り上げ
「迷惑!?はっ!
掛かりまくりだ!俺にも親父にも!!君は取り返しのつかないことをしてくれたんだ!」
「あなたは!いつも自分と会社のことばかりですね」
この居酒屋は個室でタバコを吸えない。狭い喫煙ルームに行かなければ喫煙ができず、しかも三人程入ったらすぐいっぱいになってしまうこの個室であたしたちは言い争いをしていた。
こんな所、誰かに見られでもしたら…
誰かに…
「あっれー!柏木さんと部長じゃないですか~!偶然ですね~」
スラっと喫煙ルームの引き戸を開けて顔を出してきたのは
二村さん―――
「どうしてお前がここに?」と啓が思いっきり不審そうに顔を歪めた。
「やだな~、偶然ですよ、偶然☆」と二村さんは軽くウィンク。
その後すぐに「まさか俺がお二人の後を尾けてきたとか??そんな三流小説家みたいな推理やめてくださいよ~」
と苦笑いを浮かべながら肩をすくめて見せる。
「”最悪な偶然”だな」
啓は一言捨て置いて、ドンっと二村さんの肩にわざとぶつかり喫煙ルームを出て行ってしまった。