Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「二村さんも、まだまだですね。ホンモノと偽物の涙を見間違うなんて」


目薬を宙にかざしながら低く笑うと


『”あの”空汰をそんな子供だましで良く騙せたねー…』


はぁ…と葵さんが電話の向こうでため息。


「普段泣かない女のたまに見せる涙は絶大な効果があるものですよ」


ふふっと小さく笑い、




「私たちがあのお店に行く情報、二村さんに流してくださってありがとうございます、葵さん」




『うん、まー…それぐらいならねー、でもこうまでうまくいくとは思わなかった』


「そうですか?じゃぁあなたはあなたが知るより二村さんの性格を知らなかった、ってことですね」


『そっかもな~、まぁつるんでないブランクもあったし


実際、あいつ




変わったよ』



あたしは流し目でスマホの受話口ら辺を眺めた。


あたしも変わった。


マックスにユーリと会社を取られ、身一つで日本に来てから


変わった。


もしかして―――二村さんも何か


奪われたのかもしれない。




―――どうしてそんなことに気づかなかったのだろう。



彼の本当の感情を知ったら、もっと彼を理解できたのだろうか。


いいえ、それでも


あたしは変わったと言っても”捨てた”だけ。二村さんは変わったうえさらに”奪おう”としている。


それは許されないことだ。


「葵さんありがとうございます、今度また何かご馳走します」


『ホント!やった~♪瑠華ちゃんと会える♪』葵さんの声が弾んだ。


その向こう側で


『おい勇馬ー!何油売ってやがる!』と違う男性の声が聞こえてきた。


『ヤッベ!仕事戻らなきゃ、じゃね瑠華ちゃん』


「ええ、仕事はちゃんとしてください」


ともあれ、葵さんのおかげで”作戦”は成功したわけで、今回ばかりは仕事をサボってまで協力してくれた葵さんに感謝だ。

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