Fahrenheit -華氏- Ⅲ
葵さんと通話を切り、あたしはメール画面を開いた。
”先ほどはご協力ありがとうございました。
結局、ご馳走になる形になり申し訳ございませんでした”
と
啓―――に短くメールを送った。
メールの返信はそれから五分と経たないうちにきた。
送信元は、確かめるまでもない―――
啓、
で
”役に立てたかな。
ちょっとわざとらしかったか心配”
と短い一文が入っていた。
お分かりかと思うけれど、そう……あたしたちの”喧嘩”は二村さんに見せつける為の演技。二村さんが現れる情報を葵さんから事前に聞いていたから、急遽啓に頼んだのだ。
あたしたちの作戦はうまくいったと思うけれど、心苦しいのは佐々木さんがあたしと啓が本当に言い合いをした、と思い込んでいること。騙すような形になって申し訳ない。
”ええ、多いに役に立ちました。ありがとうございます”と返信を打とうとして、啓の文面をもう一度見返してスクロールしていくと、空白の改行がたくさん続き、
「?」
首を捻りながらその空白の改行部分をスクロールしていくと
”今日はありがとう。
誕生日プレゼントも飲み会の企画も。
最悪な終わりになっちまったけど、俺にとっては最高な一日だった。
君の口から直接『おめでとう』を聞けるとは思ってなかったから。
27年間、生きてきた中で最高の誕生日だった。
生まれてきて初めて、『生まれてきて良かった』と思った。
本当にありがとう。
帰り道、気を付けてね”
啓――――
あたしはスマホをきゅっと握ったまま両手で包み込み深く俯いた。
『ありがとう』
そんな風に思ってもらえるなんて―――