Fahrenheit -華氏- Ⅲ

葵さんと通話を切り、あたしはメール画面を開いた。


”先ほどはご協力ありがとうございました。


結局、ご馳走になる形になり申し訳ございませんでした”






啓―――に短くメールを送った。


メールの返信はそれから五分と経たないうちにきた。


送信元は、確かめるまでもない―――


啓、






”役に立てたかな。


ちょっとわざとらしかったか心配”


と短い一文が入っていた。


お分かりかと思うけれど、そう……あたしたちの”喧嘩”は二村さんに見せつける為の演技。二村さんが現れる情報を葵さんから事前に聞いていたから、急遽啓に頼んだのだ。


あたしたちの作戦はうまくいったと思うけれど、心苦しいのは佐々木さんがあたしと啓が本当に言い合いをした、と思い込んでいること。騙すような形になって申し訳ない。


”ええ、多いに役に立ちました。ありがとうございます”と返信を打とうとして、啓の文面をもう一度見返してスクロールしていくと、空白の改行がたくさん続き、


「?」


首を捻りながらその空白の改行部分をスクロールしていくと




”今日はありがとう。


誕生日プレゼントも飲み会の企画も。


最悪な終わりになっちまったけど、俺にとっては最高な一日だった。


君の口から直接『おめでとう』を聞けるとは思ってなかったから。


27年間、生きてきた中で最高の誕生日だった。






生まれてきて初めて、『生まれてきて良かった』と思った。


本当にありがとう。


帰り道、気を付けてね”




啓――――




あたしはスマホをきゅっと握ったまま両手で包み込み深く俯いた。


『ありがとう』


そんな風に思ってもらえるなんて―――

< 600 / 732 >

この作品をシェア

pagetop