Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「すみません、不躾なことを聞いて」
村木さんはそっけなく言う。
「ええ、本当に不躾ですね」あたしもストレートに返すと、今度は村木さんが苦い顔。
「私たちが別れたこと、そんなに気になります?お嬢様のお見合いのこと、まだ諦めていないのですか」
前を向いたまま村木さんと目を合わすことなくそっけなく言うと
「いえ、梨々花の件に関しましては―――その……もう一回、ちゃんと食事の場を設けようかと……
頭ごなしに反対するのも…とりあえず二人がどれだけ真剣なのか耳を傾けるのも悪くないかと」
随分遠回しな言い方だけれど、村木さんは村木さんなりに前向きに検討する、と言いたいのだろう。
「まだ結婚は許してませんけれどね」と、村木さんはブスリと付け加える。
くすっ
私は小さく笑った。
「村木さんらしい」
思わず心の声が口に出た。
「頑固で偏屈なところ」
今度はあたしがストレートに言って彼を見上げると、村木さんは顔を引きつらせながら
「そちらも随分ズケズケと言いますね」
「すみません、こう言う性格なので」
そう言い置き、あたしは小さくなったタバコを灰皿にぎゅっと押し付けた。
「素直になれないんです、私。
本当はもっと言いたいこと、したいこと、して欲しいこと、いっぱいあるのに
いっつもちゃんと向き合えないんです、大事なことに」
あたしはしゃがんだまま、またも村木さんから視線を逸らし、呟くように言い
「だからかな……あたし、一度失敗して、また失敗。失敗の繰り返しです。流石に二度目はキますね」
と続けた。
村木さんがこちらを見下ろしたのが気配で分かった。