Fahrenheit -華氏- Ⅲ

しかしいくらお風呂で考えたって何もいいアイデアが浮かんでこなかった。


お風呂に入ってから一時間も経とうとしていた。ヴィヴァルディの四季はすっかり終わっていて、お気に入りだったはずの『冬』が過ぎ、今は軽やかな『春』に移ろうとしている。



『夏は―――もう終わったわ』



前に、心音に言った言葉だ。(※FahrenheitⅡ 参照)


あたしは結婚して半年程でユーリを授かり、無事出産を終えて一年程の休職をしてその間、ビジネスパートナーにFahrenheitを任せていたわけだけど


復帰したあたしに最初に突き付けられた残酷な現実。


地元のローカル雑誌にマックスと見知らぬ女がヴァレンタインの所有するプライベートビーチでキスを交わしている写真が記事として掲載されていたのを発見して絶望にかられた。


その頃あたしたちは……あたしとマックスの仲は冷え切っていた。結婚して半年経つとマックスの嫌な所が露わになり、あたしは彼に触れられることを拒んだ。最後の“営み”の際に出来たのは偶然なのか―――それとも母親になることを引きかえに彼にとっての女を捨てることだったのか。


それでもユーリがあたしのお腹の中で少しずつ大きくなっていくのは唯一の生きがいだった。


彼女の登場を待ち望んでいた。小さな手を握ることを、この腕で抱きしめることを夢見てた。


マックスも同じ気持ちでいてくれたと思った。何よりお腹の子のことをそれは愛おしそうに気にかけてくれた。冷えた何かが温かくなったと、勘違いしていた。


そんなときにマックスはあろうことか他の女に手を出していたのだ。


マックスはたったひと夏の遊びだと言い切った。


たったひと夏。確かに夏は開放的になる。



『夏が終わると、寒い冬が訪れる』




当たり前のことだけど、それには深い意味があると分かった。


そう


熱い夏がやってきたあと訪れるのは、心さえ凍るような寒い季節がやってくるのだ。


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