Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ジェイクも彼の方でも仕事が忙しかったし、あたしの方はもっと忙しかった。大学に会社に、すれ違うのは当然のことだった。
三か月後、あたしは前触れもなくジェイクから別れ話を切り出された。
「You seem to be opening up to me.But your mind is not completely on me.(君は俺に気を許してくれてるようだが、君の心は完全に俺の方を向いていない)」
そう言われて、しかし何故だが悲しくなかった。
Same to you.(お互い様でしょう)とは、何故だか言えなかった。
そう、彼の中であたしは”一番”じゃない。他に女がいる、とかそう言う問題でもない。
ただあたしより大切な”何か”がある、と当時のあたしはそう思っていた。
そしてそのまま彼との仲は完全に終わった。
あまりに短い、それこそ夏の逢瀬。
季節の一つをまるで風が通り過ぎるように、始まりと終わりがあり、記憶にも傷跡を残さずあっという間にあたしの頭から消えたひと。
だから、あたしはこのことを心音に報告していない。
心音もコロンビア大学を飛び級するため履修課目が多かったし、立ち上げたばかりのFahrenheitにもそこまで顔を出していなかった、と言うものもある。
何回目かの夜にベッドに横たわって寝ているジェイクの頬をそっと掌で包んだ、
長いまつ毛を伏せて、金糸のような髪が額を滑り落ちる。
その感触が心地よかった。
それ以上の記憶はあまりない。