Fahrenheit -華氏- Ⅲ
部屋の最奥部分に親父とジェイク・ダリス。その間に挟まれるように瑠華が座り、緑川副社長や瓜生常務、鴨志田監査役と言った面々が部屋の手前まで並んでいる。俺は因みに一番手前の席で瑠華とは一番離れちまった。
綾子と瑞野さんが最初にカップに入ったコーヒーをそれぞれに出していたが、綾子は「失礼します」早々に立ち去ろうとしていた。
「え、でも……」と瑞野さんは部屋の中を見て
「私たちが居ても邪魔になるだけよ、出ていましょう」と綾子はいつもにも増して声を低め、瑞野さんを一瞥。
ナイス綾子。
ジェイク・ダリスが株の35%を取得したと言う情報を神来社支社長が知っていた、当然二村も知らない筈がない。
これで会議の内容は外(二村)に漏れない。
二村め、今頃さぞ歯ぎしりしているに違いない。
緑川副社長が手を上げた。
親父が副社長に目を向け
「何故、今頃になって突然投資する気に?しかも多額だ」と副社長は警戒心をむき出しにして、胡散臭い何かを見るような目つきでジェイク・ダリスを見た。
ど直球だな。まぁそれだけ余裕がないと見える。
瑠華が素早くジェイク・ダリスに耳打ちをして、彼は二三頷くと、軽く肩をすくめ瑠華に何かを喋り聞かせた。早口なのと、瑠華の言う訛りと言うのが強いのか俺ですら聞き取れない。瑠華もまた「Yes,」とか「OK」とか頷くと
「突然見知らぬ若者が来て株の35%を取得した、とあってはあなた方の目にはうさん臭く映る筈ですが、
これはあくまで正当なビジネスです、と仰ってます」
正当な、ビジネス―――ね……
どうあったって胡散臭いだろう。
大体、これほどの大物が通訳も連れて来ないで来日するか?
「我々が聞いているのは何故…Why?と言うことだ。見方がどうかと言う話ではない」と瓜生常務がイライラとした面持ちでテーブルを指で叩く。
瑠華がまたも早口で訳してジェイク・ダリスに伝える。ジェイクはまたも余裕のある素振りで頷き
「TOYOエクスプレスの件を聞きつけたようです、半年前、わたくし柏木が競り落とした案件ですが、その案件がキッカケになって、弊社ではこの半年間何度も話し合いを重ね、結果投資に至った、と仰っています」
TOYOエクスプレス―――
「ふん、TOYOエクスプレスは柏木部長補佐が競り落とした案件だろう?偶然か?二人はぐるになっているんじゃないか?」と緑川副社長が鼻息を荒く腕を組む。
確かに、緑川副社長の言うことももっともだ、偶然―――にしちゃ出来過ぎている気がするが。
しかし
トンっ!
やや強い感じで親父がテーブルに手をつき
「副社長、いくら何でもその言い方は柏木さんに失礼じゃないかね。我々は彼女のおかげで多額の利益を得ることができた」と緑川支社長を射るように見つめた。
緑川支社長はびくりと肩を揺らし
「……失言…お許しください」
くくっ
俺は心の中で小さく笑った。
タヌキめ、いいザマだ。