Fahrenheit -華氏- Ⅲ
その後も様々な質疑応答がなされた。
が、どれもCCの…いや、ジェイク・ダリスの魂胆を見抜こうとする意見ばかりで、ジェイク・ダリスからはあくまでビジネスだ、と、と繰り返し。
真意は分からないものの
「これはいい話だと思う。アメリカの大手企業が我々の事業に目をつけてくれたのは。今後は幅広く世界進出したいと思っていたからね、これはいいチャンスだと思うが」
と親父が言い、しかし役員一同は戸惑いでざわめいていた。
「信じていいのか…」
「噂では向こうではハゲタカとか呼ばれてる企業じゃないか」
「うちも食いつぶす気じゃ…」
「それにあんな若造にどんな決定権があるって言うんだ…」
「しかし35%なら大したことできませんよ」
ひそひそ、
あちこちから小声が飛んできた。
35%なら大したこと―――できるんだな、これが。親父とジェイク・ダリスが結託すりゃ株は84%、特別決議(定款の変更、増資や株式譲渡の実施などを決める決議)を単独で可決させることが可能だ。
だがあくまで親父と手を組んだら、の話だがな。
やはりここはジェイク・ダリスが敵か味方かを知る必要がある。
テーブルの上で両手を組んでいると
「Hey,you.(そこの君)」とジェイク・ダリスが俺を見て声を発した。今まで口を真一文字に引き結んでことの成り行きを見守ってきた俺に、はじめて声が掛かった。
「神流部長、あなたが彼に何か質問したがっているように見えます、と仰っています」瑠華が無表情に言い
「ケンタッキー州のどちらにいらっしゃったんですか?」と俺が聞くと、ジェイクはゆっくりと目をまばたいた。
「質問の意図が今回の議題から大きく離れています。質問を変えてください」と瑠華が、ここではじめてジェイクの言葉を待つより早く発言した。
「柏木さん、君に聞いているんじゃないよ。俺は彼に」とジェイクの方を手で指し示すと、瑠華が少し怯んだように顎をひきジェイクに手ぶり身振りを加えて質問。ジェイクは短く答えた。
「Louisville(ルイビル)……と仰ってます」と瑠華が言い、俺は「分かりました」と言い、大人しく手を引っ込めた。
「因みにルイビルは何が有名?」と俺がまたも重ねると、瑠華はまたも眉をひそめ、ゆるゆると首を横に振った。
これ以上突っ込むな、と言うことか?
やはりジェイクと瑠華はグル?
しかしジェイクは気を悪くした様子ではなく、瑠華にまたも説明すると
「田舎をイメージされているようですが、意外に都市化していて大きなビルや商業施設も多いみたいです。NYや東京とはまた違った魅力のある都市で
バーボンやウィスキーが最高で、ほかには電器機器や農業機械などの機械工業が発達していてビジネスに大いに役立っている、あなたも一度一緒に来てみますか?素敵なバーがあってそこで一晩中飲み明かしてみたい、あなたは実に興味深い、と」
「OK,ぶしつけな質問お許しください」と言い手を合わせると
「Oh,」とジェイクはにこやかに言い、俺の仕草を真似てジェスチャー。
これは……気に入られたのか??
しかし、これで瑠華とジェイクの間に利害関係があるというのが証明できなくなった。
俺としてはほっとしていい所だが。まだ正体不明な投資家だ、油断はできない。