Fahrenheit -華氏- Ⅲ
会議がお開きになり、それぞれが席を立ち上がった。親父とジェイクは再び握手をして、そして瑠華にも「Thank you.(サンキュー)」と言いながら握手。
馴れ馴れしく触るなよ、とちょっと心の中でギリギリしていると、何故か俺にもその手は向けられ、戸惑いながらも俺は手を差し伸べた。
力強い手で引き寄せられ、油断していたというのもある。俺はあっけなくジェイクの肩に寄り掛かった。
「Ruka is an attractive 'She'.(魅力的な”彼女”だね。瑠華は)」
今度はハッキリとわかる英語で耳元でそっと囁かれ、俺は目を開いた。
これは―――挑発なのか―――?
「But you can't get her in business, you know?(でも、ビジネスでは彼女は手に入らないよ?)There is no front door to get her.(彼女を手に入れるには正当法は通じない)You have to cross a somewhat dangerous bridge.(多少、危険な橋を渡らないと)」
何を言って―――…?
俺は目を開いたままジェイクを凝視したが、ジェイクは余裕のある笑みで小さく笑うだけだった。
「Front door?(正当法?)」
俺が聞き返すと
「There is only one way to get her.(彼女を手に入れる術はひとつ。
It's passion.
”情熱”さ)」
「Mrダリス」親父がジェイクを呼び、彼は俺からぱっと手を離した。
「この後、会食をしたいのだが。日本食の美味しい懐石を予約してあってね。柏木さん、君も是非同席願いたいのだが」と親父が言いだし、瑠華は目を開いて自分を指さし。
会食―――聞いてねぇし。てか瑠華も一緒に!?
「君の通訳は大いに役立った。だがしかし、このままダリス氏を帰すわけにはいかない。日本流おもてなしをしたいのだが」
「そういうことですか。かしこまりました」瑠華は頭を下げ承諾。
「と、言うわけで私は会長にご同行することになりました。申し訳ございませんが、午後の約束をキャンセルしていただいて宜しいでしょうか。幸いにもTUBAKIウェディングの香坂さんとしかアポイントが入っていませんので」
「あ、ああ…分かった。香坂さんには断りを入れておくよ」
まぁ幸いにもあのひと(香坂さん)のことだから突然のアポがなくなっても怒るタイプではない。
「すみませんが、後はよろしくお願いいたします」
瑠華は小さく言い、くるりと踵を返すと出入口に向かった。それより早くにジェイクが扉を開け、瑠華はそれに対して何のアクションもせず、当然のように大人しく出て行った。
流石レディーファーストの国……
って、感心してる場合じゃねぇっつの!
やっぱあの二人、昨日今日って仲じゃない!
いくらレディーファストの国だからと言って、初対面であそこまで自然に受け入れられるものか?