Fahrenheit -華氏- Ⅲ
ああ、分かんねぇ!!
瑠華が親父と会食に出かけていって30分が経過した。
「あれ?部長だけお戻りですか?柏木さんは?」と佐々木が不思議そうに聞いてきたが、
「何かよく分からん外人と食事中だ」と俺の答えもぞんざいになった。
「よく分からない外人と…って?」
「知らねーよ、俺が聞きたいっつうの!」と佐々木は何も悪くないのに、こいつに当たっちまった。
「ごめん…」自己嫌悪~に陥って謝ると
「いえ……何かあったんですか……また会長に怒られた…とか?」と佐々木が探るように聞いてきて
「いや、怒られもしなかったわ」
――
――――
30分前。
役員たちがぞろぞろ帰って行こうとしているとき、瑞野さんが神来社支社長を見つけて話しかけているのを見つけた。
マズイ…
俺は神来社支社長にそれとなく近づき
「神来社支社長、お久しぶりですね」と笑顔で握手を求めた。
「やぁ、神流部長。お久しぶりです」と神来社支社長も笑顔を張り付けていた。瑞野さんと一緒に居た二か月前に会ったことをお互いおくびにも出さず…
「今日はお車で?」
「ええ、地下駐車場に」
「じゃぁお車までお送りしますよ」俺が言い出すと
「そ、それは私が……」と瑞野さんが言い出した。
「いや、いいよ。瑞野さんも会議室の片づけとかあるだろ?俺は時間に余裕があるから」
と言って神来社支社長をエレベーターまで促すと、流石にそれ以上は瑞野さんも何も言ってこなかった。
神来社支社長とエレベーターホールで二人っきりになって、瑞野さんが会議室に入っていくのをきっちり見届けて、俺は神来社支社長にこそっと耳打ち。
「あの瑞野さん……彼女はあまり信用できません」
「え―――?」
神来社支社長にとっては以前可愛がっていた秘書のことを悪く言われたことに腹が立っただろうが、ちゃんと警告しておく必要はある。しかし神来社支社長は怒りだすことはなく
「ふーむ……私には裏があるようには見えなかったが……まぁ女性は二面性があるというからな……緑川派の連中に情報を漏らされたりしたら大変だ、気を付けるよ」
話が分かる人で良かった。
てかあなたも緑川派デスよね??
俺は思わず苦笑い。
「私のことこそ、信用しないほうがいいんでは?
私は緑川派にとってユダですから」
神来社支社長がニヤリと笑い、俺は「ははっ」と苦笑いで頭の後ろに手をやった。
言うまでもなく、神来社支社長を丸めこんだのは俺自身だが。
まぁ、これで?少なくとも瑞野さんから二村に情報が行くことはないだろう。
あのタヌキオヤジ(緑川副社長)が二村に相談するかもしれねぇが、そこまでは流石に阻止できん。